著者:吉田 清登(株式会社FID CMO / Genview PM) 公開:2026-09-28

BtoC with AIは、AIが企業とお客様の間に入っても主役はお客様のままだと考え、AIを新しい接客係として迎える考え方です。

BtoC with AIとは

BtoC with AIとは、企業とお客様の関係(BtoC)を中心に置いたまま、そこにAIという新しい接客の場所が加わった、と捉える考え方です。

お客様がChatGPTやGeminiに相談し、AIがいくつかの会社や商品をすすめる。その回答の中に自社が出てくるのか。出てくるとして、どう説明されているのか。これは、企業がお客様に何を伝えるかという、接客の一場面そのものです。

通販やCRM(顧客関係管理)の世界では、昔から顧客接点を大切にしてきました。広告、LP、メルマガ、LINE、DM、同梱物、コールセンター、マイページ。お客様が企業と接する場所を一つずつ整え、そこでどんな体験をしてもらうかを考え続けてきました。AIは、この顧客接点に新しく加わった場所の一つです。

AIが加わっても、主役はお客様のままです。企業はお客様への接客と、AIへの接客の両方をすることになりますが、どちらも向いている先は、結局同じお客様です。

企業とAIの関係を主役にせず、「BtoC with AI」と呼んでいるのはこのためです。主役を取り違えないこと。お客様を第一に考える姿勢をAIの時代にも崩さないための、いちばんシンプルな考え方だと思っています。

再春館で身についた「お客様を中心に置く」考え方

この考え方の元になっているのは、私が20年ほど携わってきた通販の現場、なかでも10年ほど在籍した再春館製薬所での経験です。再春館製薬所は、CRMに強い会社として、社内外から認められてきた会社です。

資料の真ん中に、お客様がいなかった

入社して間もないころ、ある資料を作って見せたところ、「お客様がスライドの真ん中にいない」と指摘されたことがあります。資料の中身ではなく、お客様をどこに置いているかを見られたのです。それくらい、お客様を中心に置く文化が徹底されていました。

日常の会話から、お客様を知る

再春館では、お客様を理解するために、社員が一丸となってマーケティングに取り組んでいました。

お客様との会話では、家族のこと、体調のこと、毎日のささいな出来事の話も、ごく自然に交わされていました。どんな暮らしをしていて、どんな背景があって、どんな悩みを抱えているのか。そうした会話を当たり前のように積み重ね、その情報がCRMにつながっていきます。お客様と話すメンバーも、CRMをはじめ、すべてのプロモーションに加わっていました。

商品を作る側も同じです。再春館では工場を「工園」と呼んでいて、工園にはお客様からの喜びの声も、ご不満の声も掲示されていました。自分たちが作る商品を使ってくださるお客様を感じながら、日々の改善を積み上げていました。

お客様の声を起点に、同じ商品を磨き続ける

ドモホルンリンクルは、8つの商品をひとつながりで使うワンラインで作られていて、成分から製法まで見直すリニューアルを何度も重ねてきました。

そのリニューアルも、お客様の声が起点です。たとえばボトルは、「開けにくい」というお声を受け止めて改善を重ね、高齢の方でも開けやすく、それでいて中身が漏れない、本当に誰でも使えるボトルにしていきました。

一度作って終わりではなく、お客様の声を聞いて、同じものを何度でも磨き続ける。これが、私が再春館で身につけた「お客様中心」です。

お客様を知ることは、数字にもつながる

再春館がCRMに強い理由は、数字にもあります。お客様を独自の考え方で捉えていて、一般的な顧客分析の手法も、世の中で一般的に言われるものとは違っていました。そのことに気づいたのは、FIDに来てからでした。お客様を深く知ろうとする姿勢が、数字の見方にまで表れていたのだと思います。

なぜ今、AIを接客の相手として考えるのか

お客様の「日常の話」を聞いているのは、いまやAI

再春館で、お客様との日常の会話から暮らしや悩みを知ることを当たり前にしていた私にとって、最近のテレビの特集は考えさせられるものでした。ChatGPTと毎日会話をして、「本当に自分を理解してくれている」と感じている人が紹介されていたのです。

NHKのニュースでも、AIで作った恋人とチャットをし、恋愛をして、結婚まで選ぶ人が取り上げられていました(あわせて、依存に注意するためのポイントも伝えられていました)。

参考:NHKニュース「AIで生成した恋人とチャット、恋愛、そして結婚。故人を再現した人も。依存に注意で防ぐポイントは」

AIと結婚するという選択が良いか悪いかを、ここで評価するつもりはありません。私が注目しているのは、AIがそれほどまでに、お客様の暮らしや心の近くにいるという事実です。

企業が知っているのは、接点で見えるお客様だけ

企業はこれまで、さまざまな方法でお客様を知ろうとしてきました。

企業がお客様を知る主な方法と、そこから分かること

企業がお客様を知る方法 分かること
購入や問い合わせの記録(CRM)誰が、いつ、何を買い、どう関わってきたか
お客様の声(アンケート・問い合わせ・口コミ)満足・不満、言葉にされた要望
インタビュー・調査購入の理由、迷い、暮らしの中での使われ方
SNSやレビューの投稿企業に直接は言わない本音や評判

どの方法にも意味がありますが、分かるのは、お客様が企業と関わった場面での姿が中心です。

一方でAIは、お客様が企業には話さないこと、たとえば体調のこと、家族のこと、何に迷っているのか、誰に何を勧められたのかを、毎日の会話の中で聞いています。

AIも接客の相手に加える

お客様を知る、お客様を理解する、という点では、企業がどれだけマーケティングを頑張っても、毎日お客様と話しているAIには勝てない。私はそう考えています。

これからの企業のマーケティングでは、AIも接客の相手に加える必要があります。お客様のことをいちばんよく知っているAIに、自社のことを正しく知ってもらう。そうして初めて、AIは、お客様にとって本当に役に立つ形で、自社のことを伝えてくれます。

AIは会話の中の一言で、おすすめを変える

AIがお客様の言葉をどれほど強く受け止めるのかは、Genviewの実験でも見えています。

2026年9月、ChatGPT・Perplexity・Geminiに、化粧品のおすすめを聞く実験をしました。何も添えずに聞いたときは、ある商品が一番のおすすめになったのは60回中0回でした。ところが、質問に「知り合いの皮膚科医が勧めていた」という一文を足すと、120回中119回で、おすすめがその商品に変わりました。

AIに「なぜその商品を選んだのか」と聞くと、その一言を決め手として説明したのは118件中48件、4割ほどでした。AIは、会話の中の一言で答えを大きく変えながら、その理由を自分では正しく説明できないことがあります。

化粧品のおすすめを聞く実験で、その商品が一番のおすすめになった回数

条件 その商品が一番のおすすめになった回数
何も添えずに聞いた60回中0回
「知り合いの皮膚科医が勧めていた」と一文足した120回中119回

調査の詳細:AIに「その回答の根拠は?」と聞いても、返ってくるのは判断の根拠とは限らない

この実験は、化粧品の2つの質問で行ったもので、ほかの業界や質問でも同じ結果になるかは分かりません。そのうえで、ここから私が考えているのは、次のことです。

AIは、会話の中でお客様が話したことを、とても強く受け止めます。お客様が自分から「〇〇の商品が気になっている」「〇〇さんに勧められた」と話してくれれば、AIの答えはそれに大きく引っぱられるはずです。お客様が自分から自社の名前を出してくれる関係を作れているかどうかも、AI越しの見え方に関わってくるのではないかと考えています。お客様と企業の関係こそが中心にある、というBtoC with AIの考え方そのものです。

企業がするのは「二段階の接客」

AIが間に入ると、企業は二段階の接客をすることになります。

  1. 1

    AIという新しいスタッフに、自社のことを正しく教える

  2. 2

    そのAIが、お客様を接客する

人のスタッフを教育するのと同じように、AIにも、自社の強みや事実を、正確に、繰り返し伝えておく必要があります。AIへの接客がおろそかになれば、その先にいるお客様への接客も崩れていくと考えています。

AIが何を話しているかは、企業からは見えない

とはいえ、ここにはこれまでの接客にはなかった難しさがあります。人のスタッフなら、どんな説明をしているかは、そばで聞けば分かります。でも、AIがお客様に何を話しているかは、企業からは基本的に見えません。

しかもAIは、自社サイトだけを見て自社のことを話しているわけではありません。Genviewの調査では、Geminiが化粧品ブランドのキュレルの名前を62回答で挙げていたのに、キュレルのページを引用していたのは3回答だけでした。残りの回答では、他ブランドの公式サイトや記事、口コミなど、キュレル以外のページを見ながらキュレルのことを話していたことになります。

調査の詳細:AIがあなたの会社の名前を出すとき、見ているのは自社サイトとは限らない

さらに、情報が正しく伝わるまでには時間もかかります。Genview自身の料金を変えたときには、Geminiがいったん新しい料金を答えたあと、翌日には古い情報に戻り、名前の似た別のサービスと混ぜて説明したこともありました。

調査の詳細:AIの回答はいつ最新になる?自社サービスの機能・価格変更を2週間観測してみた

見えないものは、直しようがありません。二段階の接客では、AIに教えることと同じくらい、AIがお客様に何を話しているかを確かめ続ける必要があります。

商品(点)ではなく、会社(ブランド)でお客様とつながる

再春館で学んだことの一つに、お客様とは商品という「点」でつながるのではなく、会社・ブランドとしてつながる、という考え方があります。ひとつの商品を買っていただくことがゴールではなく、この会社なら、このブランドなら、と信頼していただくこと。その信頼があるから、お客様は長く付き合ってくださいます。

Genviewの「ブランド認識改善」という機能も、この考え方が根本にあります。自社が伝えたい強みと、AIが実際に話している内容とのズレを見えるようにする機能です。順位やスコアだけでは、なぜそう扱われているのかまでは分かりません。ズレの中身まで見ることで、ブランドとして正しく伝わっているかを確かめられます。

詳しくは:ブランド認識改善とは?AI認識と理想のズレを可視化

AIの推薦に、推しの商品がなかったら

お客様の立場で考えてみます。何かを探していてAIに相談したとき、AIがすすめてきた候補の中に、自分が気に入っている会社や商品が入っていなかったら、どうするでしょうか。

私は、多くの人が「〇〇はどう?」と聞き直すのではないかと考えています。これはまだ確かめていない仮説で、いつか調査したいテーマです。

もしそうだとすれば、AIの推薦に最初から入ることと同じくらい、お客様に「AIの答えに入っていなかったら、聞き直してでも選びたい」と思ってもらえる存在になれているかが問われます。そして、お客様が聞き直してくれたそのときに、AIが自社のことを正しく説明できるように、ブランドとしての情報を整えておく必要があります。

ブランドを、お客様とAIの両方に正しく伝えること。BtoC with AIの時代に企業が選ばれ続けるための土台は、ここにあると考えています。

「BtoA with C」との違い

AI時代のマーケティングを表す言葉として、佐藤尚之(さとなお)さんが提唱している「BtoA with C」があります。2025年12月に日経BPから出版された書籍『AIに選ばれ、ファンに愛される。』の中で、企業が生活者に働きかける「BtoC」から、そこにAIが介在する「BtoA with C(Business to AI with Consumer)」へ変わる、という枠組みが示されています。書籍では、AIに選ばれる道と、ファンに愛され続ける道の2つも示されています。

参考:日経クロストレンド「『BtoCは、BtoA with Cへ』 さとなお氏が提唱、AI時代の新フレームワーク」

どちらも、生活者と企業の間にAIが入ってくる、という同じ変化を見ています。違いは、その関係のどこを中心に置くかです。

「BtoA with C」と「BtoC with AI」の違い(筆者の整理)

項目 BtoA with C BtoC with AI
名前の並び企業の働きかけの先にAIを置き、生活者はAIとともにいる企業とお客様の関係を置き、AIはそこに加わった接点
中心に置くものAIに選ばれること、ファンに愛されることお客様との関係
AIの位置づけ企業が向き合う相手企業とお客様の間に入った、新しい接客係

BtoC with AIという名前にしたのは、私が再春館で「お客様中心」を身につけてきたからです。資料の真ん中にお客様を置く。日常の会話からお客様を知る。お客様の声を起点に、同じ商品を何度でも磨き続ける。そういう現場にいた私には、AIが間に入っても、真ん中にいるのはお客様だ、という見え方がいちばん自然でした。

どちらが正しいという話ではなく、同じ変化を、どこから見ているかの違いだと考えています。

BtoC with AIの考え方で、企業がやること

BtoC with AIの考え方に立つと、企業がやることは、再春館がお客様の声で商品を磨き続けてきたことと同じ形をしています。AIにどう伝わっているかを確かめ、ズレがあれば直し、また確かめる。この循環を回し続けることです。

Genviewでは、この循環を3つの役割に分けています。

Genviewが分けている3つの役割と、それぞれでやること

役割 やること
計測するAIでのブランドの言及、説明のされ方、競合との比べられ方を把握する
改善する説明の不足、比べられる軸、FAQ、信頼につながる情報などの課題を見つけ、発信を整える
深めるAIの回答と競合の状況の変化を追い続け、お客様の体験を改善し続ける

一度整えたら終わりではありません。AIの回答は毎回同じではなく、情報が伝わるまでに時間もかかります。お客様の声で同じ商品を何度でも磨くように、AIでの見え方も、確かめては直すことを続ける必要があります。

この循環を回し続けることが、AIという新しいスタッフを、お客様にとって頼れる接客係に育てていくことだと考えています。

お客様に誠実であることが、AIにも誠実であることと同じなら、企業がやるべきことは、実はそれほど複雑ではありません。ただ、それが実際にできているかを確かめる手段が、これまでなかっただけです。

ここまでで言えること・まだ言えないこと

このページには、実験で確かめたことと、私の経験や考えが混ざっています。区別できるように分けておきます。

このページの内容を、確かめ方ごとに分けたもの

分類 内容
実験で確かめたこと会話に一文足すだけで、AIのおすすめが120回中119回変わった(化粧品の2つの質問)。AIは自社サイト以外のページを見ながら、その会社のことを話していることがある。AIの回答が新しい情報に切り替わるまでには時間がかかり、古い情報に戻ることもある
報道で伝えられていることAIを恋人とし、結婚を選ぶ人もいる(依存への注意も伝えられている)
筆者の経験再春館製薬所で、日常の会話からお客様を知り、お客様の声を起点に商品やボトルを改善し続けてきたこと
筆者の考えお客様を知るという点では、企業は毎日お客様と話しているAIに勝てない。だから企業は、AIも接客の相手にする必要がある
まだ確かめていないことAIの推薦に気に入っている商品が入っていなかったとき、お客様は聞き直すのか。お客様が自分から社名を出してくれる関係が、AIでの見え方をどれだけ変えるのか

まだ確かめていないことは、これからGenviewの実験で調べていきたいと考えています。

よくある質問

Q BtoC with AIとは何ですか?

A

企業とお客様の関係(BtoC)を中心に置いたまま、そこにAIという新しい接客の場所が加わった、と捉える考え方です。主役はお客様で、AIは企業とお客様の間に入った接客係と考えます。

Q BtoC with AIは、GEO対策とどう関係していますか?

A

GEO対策は、AIの回答の中で自社が正しく理解され、言及・引用・推薦される状態を確かめ、改善していく取り組みです。BtoC with AIは、そのGEO対策を「お客様への接客」として考えるための土台になる考え方です。AIに自社を正しく教えることは、その先にいるお客様への接客を整えることでもあります。

Q BtoC with AIは「BtoA with C」と何が違いますか?

A

どちらも、企業と生活者の間にAIが入る変化を捉えた言葉です。BtoC with AIは、その中でも、企業とお客様の関係を真ん中に置き、AIをそこに加わった接客係と見る点に重きを置いています。

Q BtoC with AIの考え方で、企業はまず何から始めればいいですか?

A

まず、AIが自社のことをお客様にどう説明しているかを確かめることです。自社が伝えたいことと、AIが話していることのズレが分かれば、何を直せばいいかが見えてきます。

まとめ

BtoC with AIとは、企業とお客様の関係を中心に置いたまま、AIという新しい接客の場所が加わった、と捉える考え方です。

お客様の毎日の悩みや暮らしを、いちばん近くで聞いているのは、いまやAIです。お客様を知るという点では、企業はAIに勝てない。そう考えると企業は、AIに自社のことを正しく教え、そのAIがお客様を接客する、という二段階の接客をする必要があります。

そのときに見るべきなのは、商品という点ではなく、会社・ブランドとして、お客様とAIの両方に正しく伝わっているかどうかです。そして、AIでの見え方を確かめては直すことを、お客様の声で商品を磨き続けるように、続けていくことです。

AIが間に入っても、主役はお客様です。

この記事を書いた人

吉田 清登 / Yoshida Kiyoto

株式会社FID 執行役員CMO / Genview プロダクトマネージャー / JECCICA客員講師

通販業界20年以上。再春館製薬所で越境EC・タイチームの管理を経て、現在は Genview の事業責任者。

得意分野のCRMのエッセンスをGEO対策に取り入れたのが Genview です。AI時代の接客は BtoC with AI。主役はお客様で、AIはその間に入った存在です。お客様に伝えると同時に、AIにも自社を正しく伝える。AIを通してどう伝わっているかを、実際に測って確かめています。

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